大判例

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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)510号 判決 1969年5月29日

控訴人(反訴原告)

宇野ムメ字

控訴人(付帯被控訴人)

田村三治

控訴人

梅沢信夫

右三名代理人

荻矢頼雄

復代理人

新宅日出男

被控訴人

(付帯控訴人、反訴被告)

吉川奈良子

代理人

黒田喜蔵

黒田登喜彦

主文

本件各控訴を棄却する。

付常控訴にもとづき、原判決中控訴人田村三治に関する部分(主文第二項)をつぎのとおり変更する。

控訴人田村三治は、被控訴人に対し、原判決別紙目録記載の建物のうち同末尾添付図面朱斜線表示の部分を収去してその敷地一〇坪八合六勺(35.900平方メートル)を明け渡し、かつ、昭和三五年一〇月四日から昭和三七年三月三一日までは一か月金一〇、六一〇円、同年四月一日から昭和四〇年三月三一日までは一か月金一九、八一九円、同年四月一日から右土地明渡済みに至るまでは一か月金二四、三九一円の各割合による金員を支払え。

控訴人宇野ムメ子の反訴請求を棄却する。

控訴費用(反訴に関する費用を含む。)は、控訴人らの負担とする。原判決第一項およぶ第三項ならびに本判決第三項は、被控訴人において金三〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

一  申立て

控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求は、付帯控訴にもとづき拡張した部分をも含めて、いずれも棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、および、控訴人宇野ムメ子の反訴請求として、「被控訴人は、控訴人宇野ムメ子に対し、大阪市南区高津町九番丁一九番地の一四宅地一〇坪八合六勺(35.9007平方メートル)について、所有権移転登記手続をせよ。反訴費用は、被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は、「本件各控訴を棄却する。付帯控訴にもとづき請求を拡張し、原判決中控訴人田村三治に関する部分をつぎのとおり変更する。同控訴人は、被控訴人に対し、原判決別紙目録記載の建物のうち同末尾添付図面朱斜線表示の部分を収去してその敷地一〇坪八合六勺(35.9007平方メートル)を明け渡し、かつ、昭和三五年一〇月四日から昭和三七年三月三一日までは一か月金一〇、六一〇円、同年四月一日から昭和四〇年三月三一日までは一か月金一九、八一九円、同年四月一日から右土地明渡済みに至るまでは一か月金二四、三九一円の各割合による金員を支払え。控訴費用(付帯控訴費用を含む)は、控訴人らの負担とする。」との判決および右原判決の変更を求める部分につき仮執行の宣言を求め、控訴人宇野ムメ子の反訴に対し、「控訴人宇野ムメ子の反訴を却下する。本案につき、同控訴人の反訴請求を棄却する。反訴費用は、同控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  主張

(一)  本訴について

1  被控訴代理人は、本訴請求の原因として、

「本件土地は、もと小林秀三の所有に属していたところ、同人は、昭和二四年五月、被控訴人の父吉川清吉との間で、右土地の売買契約を締結した。そして、被控訴人は、昭和三〇年八月右清吉から本件土地の贈与を受け、同年一〇月一七日小林から直接所有権移転登記を受けた。しかるに、控訴人田村は、昭和三五年一〇月四日以降本件土地上に本件建物(原判決添付図面赤斜線部分に限る。以下同じ。)を所有し、控訴人梅沢は、同建物のうち原判決添付図面(A)の部分を占有して、いずれも、被控訴人の土地所有権の行使を妨害している。よつて、控訴人田村に対しては本件建物の収去と土地明渡しを、同梅沢に対しては右(A)の部分からの退去と土地明渡しをそれぞれ求めるとともに、士地不法占拠による損害賠償として、控訴人宇野および同田村に対し、つぎの金員の支払を求める。

(1)  控訴人宇野に対しては、金二四七、一二四円およびこれに対する昭和三五年一〇月一六日から完済まで年五分の割合による遅延損害金

(2) 控訴人田村に対しては昭和三五年一〇月四日から昭和三七年三月三一日までは一か月金一〇、六一〇円、昭和三七年四月一日から昭和四〇年三月三一日までは一か月金一九、八一九円、昭和四〇年四月一日から右土地明渡済みに至るまでは一か月金二四、三九一円の各割合による賃料相当の損害金」

と陳述した。右請求原因中、控訴人宇野に対する金員請求の根拠は、原判決事実摘示の請求原因第(二)項ないし第(四)項に記載されているとおりであるから、これを引用する。

2  控訴人ら代理人は、「被控訴人主張の請求原因事実中、本件土地がもと小林秀三の所有に属し、同人が昭和二四年五月被控訴人の父吉川清吉との間で売買契約を締結したこと、被控訴人が昭和三〇年一〇月一七日小林から直接所有権移転登記を受けたこと、ならびに、本件建物が本件土地上に存することおよびその昭和三〇年一〇月一八日以降の所有関係と現在の占有関係は、いずれも認めるが、その余は否認する。」と述べ、抗弁として、

「(1) 小林・吉川間の本件土地売買契約は、控訴人宇野の夫亡宇野清太郎が右契約締結の代理権を吉川に与え、吉川において清太郎の代理人として締結したものである。仮に吉川が本人である清太郎のためにすることを示さなかつたとしても、清太郎は当時黒門市場に店舗を構えていた商人であつたから、本件土地売買契約は、本人たる清太郎に対して効力を生ずる(商法五〇四条本文)。したがつて、右売買契約によつて本件土地を取得したのは、清太郎である。

(2) 仮に右主張が採用されないとしても、清太郎は、本件土地を吉川名義で買い取ることを同人に委託したのであるから、吉川が小林から買い受けた本件土地は、吉川・清太郎間では、直ちに清太郎の所有となつたものである。のみならず、清太郎およびその相続人たる控訴人宇野が、昭和四二年四月までに代金の支払を済ませているのであるから(一部は弁済供託による。)、少なくともこの時点において本件土地の所有権は控訴人宇野に帰属したものである。もつとも、清太郎への移転登記はいまだされていないけれども、被控訴人は、「他人ノ為メ登記ヲ申請スル義務」(不動産登記法五条)ある吉川からの転得者にすぎないから、控訴人宇野の登記のけん欠を主張する正当の理由がない。むしろかえつて、被控訴人は、吉川の相続人として、右委託の趣旨に従い、控訴人宇野に対し所有権移転登記義務を履行すべき義務あるものといわねばならない。

(3) 吉川と被控訴人間の本件宅地の贈与は、虚偽表示によるものであるから、無効である。」

と陳述した。右抗弁中、宇野清太郎が吉川に対し本件宅地購入の代理権を授与しまたは吉川の名において買い取ることを委託するに至つた事情の詳細は、原判決事実摘示の答弁(2)(3)項記載のとおりであるから、これを引用する。

3  被控訴代理人は、「原判決事実摘示の答弁(2)項の事実および(3)項中その冒頭から『各その敷地部分を組合員個人として地主から買入れることによつて対処する方針』をとろうとしたことは認めるがその余の事実は否認する。その他控訴人ら主張の抗弁事実はすべて否認する。」と述べた。そのうち、宇野清太郎・吉川清吉間の代理権授与または買取委託に対する否認についての積極的な主張は、原判決事実摘示判決書三枚目裏末行から四枚目表末行までに記載されているとおりであるから、これを引用する(ただし、四枚目表八行目「賃借」を「賃貸」に訂正する。)。

(二)  反訴について

1  控訴人宇野代理人は、反訴請求原因として、「本訴における控訴人らの主張として述べたとおりの経緯で、控訴人宇野の夫亡宇野清太郎は、被控訴人の父吉川清吉に対し本件土地購入の代理権を授与しまたはその名においてこれを買い取るよう委託し、吉川はこれにもとづいて本件土地所有者小林秀三との間で売買契約を結び、右買取りに要した代金もすでに清太郎およびその相続人たる控訴人宇野において完済した。しかがつて、本件土地は控訴人宇野の所有に属し、一方、被控訴人のため所有権移転登記がなされているから、所有権にもとづきまたは委託の趣旨に従い、登記抹消に代えて、所有権移転登記手続を求める。そして、右は控訴審における反訴ではあるが、その訴訟物において本訴と関連し、反訴被告の審級の利益を害するおそれがないから、その同意を要しないものである。」と陳述した。

2  被控訴代理人は、本案前の抗弁として、控訴人宇野の反訴には同意しないから不適法として却下を求めると述べ、本案の答弁として、本訴における被控訴人の主張と同一の陳述をした。

三  立証《省略》

理由

一本件土地の所有権の帰属について

本件土地がもと小林秀三の所有に属していたこと、および、同人が昭和二四年五月被控訴人の父亡吉川清吉との間で右土地の売買契約を締結したことは、当事者間に争いがない。控訴人らは、右売買契約締結については、控訴人宇野の夫亡宇野清太郎が本件土地を入手するため吉川に対し契約締結の代理権を与えまたは少なくとも吉川の名において買い取るよう委託したものである旨主張するので、まずこの点につき判断する。

本件土地を含む付近一帯は、黒門市場と称する市場で多数の店舗が立ち並び、右小林秀三その他の土地所有者から借地して営業していたところ、昭和二三年地主側から借地期間の満了を理由に土地明渡しを求めてきたので、市場側では各店舗の所有者がそれぞれの店舗敷地を買い取ることによつてこれに対処しようとしたことは、当事者間に争いがない。ところで、<証拠>によれば、市場側では右の土地買取りの件につき協議を重ねたところの意見の一致をみず、けつきよくその集りである黒門市場組合の組合長をしていた吉川が個人で一括して買い取ることとなつたこと、そしてそのうえで、各自の店舗敷地の分譲を希望する者があれば、吉川において、個別に申込みを受け改めて売買の交渉に応じようという話になつたこと、を認めることができる。しかし、さらに進んで、吉川において各組合員から土地購入の代理権または吉川の名で買い取る委託まで受けていた点は、<中略>これを認めるに足りる証拠がない。<中略>

また、控訴人らは、前記主張の裏付として、宇野清太郎が吉川に土地買取りのための代金を支払つた旨主張し、<証拠>によれば、小林・吉川間の本件土地売買契約の約半年後、清太郎は黒門市場組合の世話をしていた米村清三郎に一万円を預けたことが認められる。しかし、これら各証拠<中略>によつても、この一万円を預けた趣旨が明らかでないし、この一万円が米村から吉川に渡つた旨の<中略>証言は<中略>信用できず、ほかには吉川に渡つている点の証拠がない。したがつて、この一万円を米村に預けたという事実だけでは控訴人らの前記主張事実を認めるには十分でない。なお、右各<証拠>中には、清太郎がもう一万円支払つた趣旨の部分があるけれども、これはすぐには信用できない。

以上のように、吉川清吉が本件土地を買い受けるについては、宇野清太郎からは代理権の授与その他なんらかの委任のあつたことを認めることができず、一方、<証拠>によれば、吉川清吉は遺産として残す趣旨で昭和三〇年一〇月はじめ本件土地を被控訴人に頼与したことを認めることができる。この認定をくつがえし、あるいは右贈与が虚偽表示によることを認めるべき証拠はない。したがつて、被控訴人は、右贈与により本件土地の所有権を取得したものというべく、そして、同月一七日、被控訴人のための所有権移転登記がされたことは、当事者間に争いがない。

二被控訴人の本訴請求について

ところで、本件建物が本件土地上に存すること、ならびに、被控訴人が主張する昭和三〇年一〇月一八日以降の本件建物の所有関係およびその現在の占有関係は、いずれも当事者間に争いがない。したがつて、被控訴人は、所有権にもとづき、控訴人宇野に対しては不法占拠による賃料相当の損害金およびこれに対する昭和三五年一〇月一六日以降完済まで年五分の遅延利息を、控訴人田村に対しては本件建物の収去と土地明渡しおよび昭和三五年一〇月四日以降右土地明渡済みまでの賃料相当の損害金を、控訴人梅沢に対しては本件建物のうち原判決末尾添付図面(A)の部分からの退去と土地明渡しを、それぞれ求めることができる。

そして、控訴人宇野に請求しうる賃料相当の損害金の額が二四七、一二四円をこえることは、原判決理由中に説示されているとおりであるから(判決書一〇枚表二行目以下)、これを引用する。また、控訴人田村に対し請求しうる昭和三五年一〇月四日以降の賃料相当額が被控訴人主張どおりであることは、<証拠>によつてこれを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

そうすると、被控訴人の本訴各請求は、全部正当としてこれを認容すべきである。

三控訴人宇野の反訴請求について

控訴人宇野の反訴の適否について判断するに、右反訴が控訴審である当審ではじめて提起されたものであり、右反訴提起については、相手方である被控訴人の同意しないところである。しかし、被控訴人の本訴請求においては、本件土地の所有権が被控訴人にあるか控訴人宇野にあるかが最大の為点であり、原審以来この点につき十分に攻撃防禦がつくされてきている。ところで、右反訴は、被控訴人に対し所有権移転登記手続を求めるものであるが、それは、控訴人宇野の本件土地所有権を根拠にしているものであるから、このような反訴提起は、被控訴人から審級の利益を奪うものとは解されない。したがつて、被控訴人の同意がないからといつて、本件反訴を不適法とすることはできない。

しかしながら、被控訴人の本訴請求について判断したように、本件土地の所有権は被控訴人にあり、控訴人宇野には属しないし、被控訴人に対し所有権移転登記手続を求めうる契約関係も認められないから、けつきよく、同控訴人の反訴請求は理由がない。

四むすび

以上のとおりであるから、被控訴人の本訴各請求(ただし、被控訴人田村に対する請求はその拡張前の部分)を認容した原告判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、なお、拡張後の請求に符合するよう控訴人田村に関する原判決(主文第二項)を本判決主文第三項のとおり改め、控訴人宇野の反訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適合し、主文のとおり判決する。(井関照夫 藪田康雄 賀集唱)

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